認知症？せん妄とうつ病との違い

認知症を抱える方が体験する症状は、必ずしも認知症特有のものではありません。

その為、認知症とそれに類似する症状が発生した状態を鑑別する必要性があります。

ここでは、認知症の類似状態について、その一例を紹介します。

[目次]
◎認知症の定義
◎具体的な類似例 １：「せん妄」
◎せん妄と認知症との違いは？
◎具体的な類似例 ２：「うつ病」
◎うつ病と認知症の違い
◎まとめ

◎認知症の定義

　認知症基本法（定義）第二条によれば、「この法律において、『認知症』とは、アルツハイマー病その他の神経変性疾患、脳血管疾患その他の疾患により日常生活に支障が生じる程度にまで認知機能が低下した状態として政令で定める状態をいう。」とされます。

　また、DSM-5 （米国精神医学会による精神障害の診断・統計マニュアル第5版）においては、

①認知機能障害の存在の確認

②社会生活における自立の阻害

③せん妄や他の精神疾患を原因としたり、説明材料としない

が定義とされます。

以下、③の内容について言及します。

◎具体的な類似例 １：「せん妄」

せん妄って？

　せん妄は、一過性の意識障害とそれに付随する精神症状の中、注意力その他に支障が出た状態を言います。

　せん妄は年代を問わず発生しますが、高齢者は特になりやすいとされます。

　一日の中で症状の変動が発生します。

せん妄を発症する原因って？

　せん妄の発症の要因として、３つの因子に分類が可能です。

A「準備因子」：せん妄へのなりやすさを示し、その時点で患者が持っている性質
 例：高齢・脳の老化・脳血管障害・高血圧・糖尿病・アルコールの多量摂取・せん妄の既往 

B「誘発因子」：せん妄の発症促進を促すモノ
 例：環境の急な変化（病院への入院特にICU・明るさ・騒音）、睡眠トラブル（睡眠不足・不眠・昼夜逆転）、身体トラブル（不快感を招く便秘・発熱等） 

C「直接因子」：せん妄を発症する直接の原因となるモノ
 例：薬剤の影響・手術・身体状態の変化・脱水症状・電解質異常・脳疾患等の各種身体疾患（甲状腺に関する疾患・感染症も含む）・貧血・外傷

せん妄の症状例と分類

「症状例」

• 幻覚（現実にはない刺激を、あると知覚する事）・妄想
• 見当識障害（人・時間・場所に対する認識が正常に働かない症状）
• 注意障害（注意力や集中力に欠けた状態になる、ぼんやりとした状態）
• 昼夜逆転・興奮状態・混乱・大声を上げる

「分類」

【症状別】

①過活動型（幻覚・興奮・歩き回る・点滴の抜去等）

②低活動型（言動がぼんやりかつスロー・見当識障害）

③両方が合わさった混合型

【発症のタイミング】

①夜間せん妄：
日中は落ち着いているが、夜間にのみ症状が現れます。

②術後せん妄：
手術後、多くは数日経過したタイミングで現れます。

③振戦せん妄：
重度のアルコール摂取を継続的にされていた方が、急に断酒や摂取量の減少をした際に現れます。手の震えや発汗等が特徴です。

④薬剤性せん妄：
薬の投与・服用数の増加、または急な中断により現れます。専門家による慎重な判断が必要となります。

◎せん妄と認知症との違いは？

①発症のタイミング

• せん妄：急激に現れそして消える。発生タイミングが特定しやすい。
• 認知症：徐々に表れ、継続する。発生タイミングは不明瞭。

②原因

• せん妄：潜在的かつ複合的な要素。
• 認知症：脳に関する異常に基づくものが多い初期からの主な症状。

③初期からの主な症状

• せん妄：意識障害（例：注意力が損なわれる）、幻想・妄想、興奮。
• 認知症：記憶障害（直近の記憶から怪しくなる）、見当識障害。

④時間帯による変動

• せん妄：夜間に悪化する傾向。
• 認知症：変動は少ない傾向。

⑤継続期間

• せん妄：治療等により数日から数週間で消失。だが、長引く場合もある。
• 認知症：治療等を駆使しても、効果こそあれど、ほとんどの場合永続する。

せん妄の診断等

1. 診察：病歴と症状を参照し、せん妄を疑う要素がないか確認します。
2. 検査：身体疾患を特定する各種検査・頭部MRIやCT、脳波等の脳に関する異常を調べます。
3. せん妄を引き起こす可能性がある因子について、検討します。

せん妄の改善（治療等）・予防

①原因に対する処置：せん妄の原因に対する対応策を講じます。

• 薬剤が原因の場合、身体への影響を考慮しながら調整する。
• 身体疾患が原因と疑われる場合、その改善を目的とした治療や体調管理の実施する。
• せん妄の症状の程度によっては対症療法として薬物治療も考慮される。
• 原因のアプロ―チが困難な「不可逆性せん妄」（肝不全や腎不全等に伴う）と判断された場合は、症状の一部の緩和を目的とした治療が検討される。

②発症促進となる要素の除去：せん妄を予防する際と同様の内容になります。

• 環境の整備：
  時間、場所、人が明らかになる様なアイテム及び定期的な声掛け・清掃・明るさの調整・音楽をかける・急な騒音への配慮等が挙げられます。
• 生活への配慮：
  視覚や聴覚のハンデへのサポート・昼夜逆転の解消、日中に太陽の光を覚える目的とした散歩（生活リズムの改善）・誰かによる見守りまたは付き添い・水分補給や排便・食事管理等が挙げられます。

◎具体的な類似例 ２：「うつ病」

うつ病とは？

　若い世代から高齢者までの人が抱えている精神疾患です。気分障害やそれに伴う悪影響（意欲低下・睡眠障害）が特徴です。

　自覚もあり、苦痛や自身の現状へのギャップ及び焦りを強く感じる事になります。

うつ病の症状って？

　意欲低下や睡眠障害に加え、高齢者の場合は不安や焦り（現状とのギャップ、突発的な物忘れ）、そして眩暈、動悸、倦怠感そして頭重感等の身体症状が目立つようになります。

　重症化すると、希死念慮が出現する事があり、周囲への相談や専門医への受診が必要となります。

うつ病の原因は？

• 喪失体験や社会環境の変化に伴うストレス。
• 孤独感や交流機会の減少。

仮性認知症とは？

• 仮性認知症：うつ病の場合、思考や集中力の低下した状態で認知機能が低下し、認知症の様に見える状態。

脳画像診断が有効の他、治療により思考機能等については改善が見込まれます。

◎うつ病と認知症の違い

①発症のタイミング

• うつ： 何かを契機に徐々に発症、進行。
• 認知症：徐々に表れ、継続する。発生タイミングは不明瞭。

②原因

• うつ：複合的な原因・喪失体験、社会環境の変化、交流機会の減少。
• 認知症：脳に関する異常に基づくものが多い。

③初期からの主な症状

• うつ： 気分の障害・不安や焦り・食欲や睡眠のトラブル・身体症状（眩暈や動悸、倦怠感）。
• 認知症：記憶障害（直近の記憶から怪しくなる）、見当識障害。

④精神症状

• うつ：一日の中での気分の変動・貧困妄想（お金が無いと思い込む）。
• 認知症：気分の変動は少ない・もの取られ妄想（誰かに盗まれたと思い込む）。

⑤継続期間

• うつ：数週間から数年単位に及ぶこともある。
• 認知症：治療等を駆使しても、効果こそあれど、ほとんどの場合永続する。

うつ病の診断等

1. 診察：記憶障害を含む認知機能の障害のスクリーニングします 。
2. 検査：血液・生化学的検査・頭部MRIやCT、脳波等の脳に関する異常を調べます。

※最近では、近赤外光を用いて、脳の血流のパターンをグラフ化する「光トポグラフィー検査」という検査も出てきています。

うつ病の改善方法

• 医師も含む周囲に対し、うつ病について話す：
  当人が抱えているうつ病の実態について、その訴えを励ますのではなく、まず傾聴し共感する事で、相手は自分の話を聞いてくれたと思うようになります。
• 認知行動療法：
  個人の物事の捉え方における偏重を修正し、柔軟かつ現実的な新しい考え方に変化させていく方法を習得します。
• 環境整備：
  落ち着いて休養できる環境を整える事も効果的です。
• 休養：
  認知症や寝たきり予防を考慮し、適度な運動も重要です。
• 生活習慣改善：
  日光を浴びる習慣や、食事や睡眠のリズムを整えるのもよいでしょう。
• 薬物療法：
  数週間で効果が出る事も多いとされます。薬剤により副作用は異なる為、減量や増量含めて専門家の観察と診断が重要となります。

うつ病の予防方法

• 喪失体験について周りと触れ合う機会を作る。
• 自発的な社会交流や、新しい趣味や仕事を始めてみる。
• 屋外の散歩や簡単な体操などを日常生活に取り入れ、適度に体を動かし、ストレスをため込まないようにしよう。
• 自分がストレスを感じる習慣等、自分と向き合う機会を作るのも良いだろう。

まとめ