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日本経済新聞 掲載 心をつなぐ
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「認知症」について学び合う場として、スウェーデンで始まったDementia Forum X。先月、日本・スウェーデン外交関係樹立150周年記念として、シルヴィア王妃陛下ご臨席のもと日本でも開催され、様々な専門家たちが意見を交わし、活発な討論が行われました。ロイヤルハウジンググループは本フォーラムに協賛し、今や国際的な社会問題である「認知症」について、福祉先進国であるスウェーデンと共に学んで参ります。今回はその一部をレポートします。
高齢化は先進諸国にとって共通テーマですが、中でも社会の根幹を揺るがしかねない課題が「認知症」です。日本の認知症患者数は2012年時点で約462万人(厚生労働省発表)、65歳以上の高齢者の約7人に1人と推計されています。人口割合でみても欧米より多く、まさに一刻の猶予もない状況です。 残念ながら、認知症は まだ〝治る”病ではありません。今後20年、画期的な新薬は生まれないだろうと言う人もいます。
だからこそ、いま現場で求められるのは、いかに早期発見をし、進行を遅らせ、最期まで自分らしく生きるにはどうすべきかという提案です。認知症と共に暮らす方々とその家族、介護者の皆さんのために、いま何ができるのか?医学の問題ではなく社会の問題として、この重要な国際課題を抱えた国同士が意見を交換し、技術を高め、互いに支え合おうとするグローバルな試みが始まっています。
シルヴィア王妃陛下は、1996年に認知症緩和ケアの専門教育機関として「財団法人シルヴィア・ホーム」を設立されました。一国の王妃が自ら率先して認知症ケアを訴えたのには、理由があります。実家のお母様が認知症となり、宮殿へ呼び寄せ自ら在宅介護をなされたとき、認知症ケアの難しさとケアワーカー教育の必要性を肌身で感じたのだそうです。
日本でも2005年日本スウェーデン福祉研究所によって教育プログラムが導入。今では日本各地13ヶ所、7万人が参加しています。(本フォーラム エグゼクティブプロデューサー 西野 弘氏 談)
東京・世田谷区で400名以上の患者の在宅介護をサポートしている内科医・遠矢純一郎氏は、日本初の〝シルヴィア ドクター”です。認知症の最前線で働く各国の医師たちと共に、カロリンスカ研究所の認知症ケアマスター研修プログラムに参加。その際、シルヴィア王妃が自ら修了証を手渡して下さったことに感激し、国を挙げての関心の高さと専門教育の重要性を痛感したそうです。実際、日本の認知症治療の現場はヨーロッパと大きく異なります。日本では、認知症が進行し危機的状況になってから精神科病床への入院・施設への入所という流れがほとんど。認知症初期の集中支援サービスの充実が急務とされています。
また、つい最近まで認知症の行動・心理症状(BPSD)のことを「問題行動」と呼んでいました。しかし最新の認知症ケアでは、その原因は患者個人によるものではなく、周囲の環境に影響されたものではないかという、新たな見解とそのサポートが始まっています。
国民病になりつつある認知症は、社会で支えるべき病気です。早期発見をし、軽い状態をより長く維持するためには、認知症を正しく知る「教育」が必要です。例えば、シルヴィア・ホームの認定施設では、全スタッフが全く同じ教育を受けます。施設長やナース、清掃スタッフまでもです。学びの中で最も重視されるのは、患者や家族、介護者のQOL(生活の質)を第一に考えること。社会の疾病として認知症と向き合うには、医療従事者や専門家だけではなく、大人から子どもまで皆が等しく学び合える「教育」の土壌があってこそなのです。
私たちは今、大きな転換期を迎えています。日本の多くの社会保障制度は、働き手となる若い世代が多い時代を基準に作られたもの。そぐわないのは当たり前です。従来通り65歳を高齢者として線引きすると、人口構造はとても不安定です。けれど、これは何も悪いことではありません。今ここにいる私たちは、先人たちが夢見た健康でより長生きできるようになった「未来」を生きているのです。例えば、「お年寄り」の定義を65歳から75歳に引き上げると、人口構造グラフは一気に安定するのです。
21世紀の社会モデルは、ひとり一人が役割を持ちながら、80歳、100歳になっても社会の一員として元気に生きられる〝生涯現役”社会。実現のためには、今の医療制度では対応しきれていない「予防医学」の充実や、テクノロジー活用も鍵となります。日本は技術先進国ですが、テクノロジーに苦手意識を持つ人も多いと言われます。技術はあくまでも道具です。便利な道具をいかにスマートに使いこなせるかが〝生涯現役”社会に繋がります。今回来日されたシルヴィア王妃陛下も、メイドインジャパンの新しい技術が認知症ケアの場に生かされるように期待するとスピーチされました。
私たちがスウェーデンから最も学ぶべきは「最期まで自分らしく、自分の力で生きる」姿勢かもしれません。認知症と共に暮らす中で、できないことが増えたとしても、できることをできる限りやる。その自立のサポートこそが新時代の認知症ケアです。何でもやってあげることが、当事者を守るのではありません。潜在・残存能力を最大限に引き出し、活躍の場や機会を最大化するにはどうしたらいいかを、共に探っていくのです。認知症を考えることは、つまりは、自分らしい生き方とは何かを考えることかもしれません。
(文責 谷本 有香)
世界を見渡しても、日本ほど急速に高齢化が進んでいる国はありません。そんな高齢化先進国であるこの国で、強みである「技術」を生かし、課題を解決しようという試みが既に始められています。一方、スウェーデンの介護に向き合う姿勢から学ばせていただいたのは、もっと利用者や高齢者に寄り添う「マインド」を生かしましょう、ということ。
「認知症は社会の疾病」だといいます。つまりこれは、「高齢化する社会」に対する私たちのとらえ方次第で、未来の姿やあり方が形成されるということ。誰もが自分らしく生きられるように、思いやりを持って互いに寄り添う。確かに、そんな社会を誰もが望んでいるはずです。
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